2009年4月16日木曜日

② 小論文講師の葛藤 後編 ~ 洋々流「発想のフレームワーク」と「答案作成のフォーマット」 ~

 後発の責務として、洋々の小論文指導は、2つの方法論の長所を適切に組み合わせることができないか、という課題から出発しています。

受講者が効率よく、しかも内容の充実した答案を作成するにはどうしたらよいか。小論文対策に割ける時間に制約があること、試験本番では時間や字数に厳しい制限があること、その帰結として、参考書等の「模範答案」と比べ、合格者の再現答案、いわば「合格答案」のレベルは決しては高いものではありえないこと等々……。

 これらを勘案した結果、2009年度から配信される洋々の『小論文動画プレゼン講義』においては、発想、書き方の双方に「型」を導入することにしました。

 まず発想ですが、こちらは洋々に在籍している各分野のプロフェッショナルと議論を重ねた末に、コンサルティング業界等で用いられているフレームワークを援用し、小論文用に作り直すことにしました。これは一定の思考のプロセスを踏むことで、いわゆる「批判的思考」を再現しようとするものです。

 次に書き方ですが、こちらは、上記のフレームワークを用いて発想した内容を文章化しやすいように、洋々独自の四段落構成~「答案作成のフォーマット」~を作成し、解説することにしました。

 洋々の『小論文動画プレゼン講義』は、講師の解説に即して、各ポイントを最新のプログラムを用いて図示することで、より直観的に理解が出来るように組み立てられています。 2009年4月現在は、まだ、課題文の読み方や発想法、実際の書き方といった総論部分の収録が終わっているに過ぎませんが、さまざまな志望校に対応できるよう、順次講座を拡大していく予定です。興味のある方は是非、洋々HPの無料サンプル講座(http://you2.jp/ao/dogasample.htm)を視聴してみて下さい。

2009年4月1日水曜日

① 小論文講師の葛藤 前編 ~「型書き」か、内容か~

 はじめまして、浅賀です。これまで、多くの塾や予備校で、現代文、小論文の指導を行ってきました。2005年度からは、洋々の小論文の責任者として、プロフェッショナルサポートの傍ら、web講座の作成、テキストの編集、メンターの採用・研修等に携わっています。

 このブログでは当面、現代文や小論文を中心に、大学入試に関連することごとを書き綴っていこうと考えています。とはいえ、あまり堅い話ばかりでも息がつまるので、時には洋々の社内風景や予備校業界の現状等についてもお話しするかもしれません。

 読者の皆さんの情報収集、もしくは息抜きに、少しでもお役に立てれば幸いです。

 小論文の指導には、大別して2つの方向性があるようです。すなわち、答案作成に際して技術を重視するのか、それとも、内容を重視するのか。前者は樋口裕一先生の『型書き小論文』、後者は中井浩一先生の『脱マニュアル小論文』といった辺りが有名でしょうか。

 簡単に経緯を記しておきましょう。まず、小論文業界に革命を起こしたのが樋口先生です。問題提起の後、「たしかに ~ 。しかし ~」と展開していく「型書き」を提唱することで、受験生が安定して答案を作成するための道筋を示しました。これは、受験生個々のセンスに頼った作文指導や対症療法に終始しがちな添削指導が少なくなかった当時において、画期的なものでした。

 しかしながら、誤算もありました。この方法はあまりにも便利すぎたのです。結果として、「なぜその型が使えるのかと」いった本質的な理解を怠り、単に型をなぞるだけの受験生も増えてしまいました。小論文模試の採点を行っていると、しばしば、接続詞の配置は整っているのに、各文の内容がそれに対応していない答案に遭遇します。手段としての「型」が、自己目的化してしまっているのです。

 そこで、そのアンチテーゼとして、内容を重視する指導法が台頭してきました。もちろん、「内容」の捉え方は多岐に渡りますが、多くは「書く」作業の一歩手前の「発想」を重視し、その力を育成、もしくは、錬成しようとしているようです。たとえば、先述の『脱マニュアル小論文』においては、6ヶ月を費やして「ナカミ」( = 個々の生徒の生活体験や、それに根差した問題意識など)を充実させたうえで、以降はその焦点化や一般化といった作業を通じて、作文を小論文へと昇華させるメソッドが紹介されています。

 ただし、ここで忘れてはいけないのは、『型書き』の権威である樋口先生も、決して型のみを重んじているわけではないということです。たとえば、『読むだけ小論文』等の著書で、思考の糸口となる様々な論点に関して解説していますし、また、書き方の基礎を身につけた暁には、その型を脱することにさえも言及しています。一方で、内容を重視する立場の指導者も、そのほとんどは、答案作成技術としての「型」を全否定するものではありません。両者は、アプローチこそ真逆ではあるものの、ある意味、その目指すところは一致しているのです。